新型コロナウイルスの影響を受け、従業員の雇用を守るため在籍型出向という働き方がより注目されています。
ANAやJALの社員が、家電量販店のノジマに出向しているというニュースを見た方も多いのではないでしょうか?
企業が在籍型出向により、労働者のスキルアップを図り、該当労働者の賃金を向上させた場合に、その費用の一部が助成される助成金制度があります!
今回は、在籍型出向のメリット・デメリットや活用事例、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)について解説していきます!
ぜひ参考にしてください!
補助金のお話は細かいし、難しくてわかりづらい用語も多いですよね!
そこで私が簡単な補足などをいれていきますね。
在籍型出向(雇用シェア)とは?
在籍型出向とは・・・出向元企業と出向先企業の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、出向先企業に一定期間継続して勤務することをいいます。
出向先には即戦力の人材を確保したり、自社従業員の業務負担を軽減したりできるというメリットがあります。
また、労働者にとってもモチベーションの維持や新しいスキル獲得が期待でき、特にコロナ禍の影響によって休業を余儀なくされたときに活用が広がりました。
どれくらいの企業が利用している?
厚生労働省によると、在籍型出向(雇用シェア)状況は下記の通りです。
今年の2月から10月までの約8カ月で、
出向労働者数 | 8373人 |
---|---|
出向元事業所数 | 812社 |
出向先事業所数 | 1331社 |
出典:キャリブロHP
厚労省では、休業と在籍型出向(雇用シェア)を併用し、雇用維持を図っている状態にあり、選択肢の1つとして取り組む事業主が増えている状況です。
在籍型出向の効果
在籍型出向は、自社にはない実践経験による新たなスキルを習得することが期待でき、企業の事業活動の促進に効果的です!
では、出向元、出向先、出向者この3者に向けたメリット、デメリットはどんなものがあるでしょうか。
メリット
それぞれのメリットは下記の通りです。
出向元(出向させる側)
新型コロナウイルスの影響により、一時的な事業縮小を余儀なくなれた企業にとって、
業績が芳しくない間、出向させることで人件費の削減が可能となります。
業績回復をしたタイミングで大切な人材がもどってくる前提の出向のため、解雇せずに人材の確保を図ることができます。
出向先(受け入れる側)
良い人材を確保できることで、研修費や育成費、求人などの経費軽減ができます。
また、出向者から新たなノウハウが吸収でき、組織を活性化できるでしょう。
労働者
営業不振に陥っても、雇用が維持され、継続して働くことができます。
また、新たな環境で働くことで、元の企業では得られなかった新しいスキルの獲得も期待できます。
たくさんの失業者が出ている状況下で、新たなスキルの獲得・ノウハウの吸収ができることは最大のメリットになります。
デメリット
一方、デメリットは下記のようになります。
出向させる側
出向者分のマンパワーが減ります。
出向先での業務にやりがいを感じ、優秀な人材が転職してしまう可能性も考えられます。
受け入れる側
想定していたスキルを持った人材が来ないミスマッチが起こる可能性があります。
さらに期間を設けての出向は出向元に戻ることが前提としてありますので、長期的な戦力化が見込めません。
労働者
新たな環境、業務のためストレスがかかります。
本人が出向を望んでいない場合、退職するケースもあり、キャリアアップにならない可能性もあります。
活用事例①
製造業(出向元)
事業体制見直しの中で新製品の事業開拓を進めるため、従業員のスキルアップやキャリア形成がしたい。
ロボット組立の最先端工場で経験を積ませ、組立技術やライン管理、安全管理技能等の習得を目指すことにした。
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産業用電気機械器具製造業(出向先)
海外でのロボット需要拡大で製造現場の人員が不足しており、質の高い人材を探していた。
違う環境・職種へチャレンジしたい意欲のある人材を受入れることとした。
活用事例②
温泉旅館業(出向元)
老舗旅館を経営しているが、最新型ホテルの優れたサービスを学ぶため、出向させたい。
↓↑
ホテル・サービス業(出向先)
老舗旅館からの出向であることから、スタッフのスキルアップにもつながると考え、初めて出向を受け入れた。
活用事例③
日本酒醸造業(出向元)
日本酒を醸造している。コロナ禍で海外で人気が高い日本酒の輸出に影響は生じているが、将来的に酒米の栽培も視野に入れているので、米作りを行っている法人があれば若手従業員の出向により技術習得をさせたい。
↓↑
耕種農業(出向先)
水稲、大豆などの生産・出荷を行っている。
大型農業機械を導入しスマート農業により生産性向上を図ることにより、従業員には週休二日制をはじめ、大型特殊車両の資格取得を支援するなど労務管理を行っている。
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
在籍型出向は自社にない実践での経験による新たなスキルの習得が期待できます。
労働者のスキルアップを在籍型出向により実施し、復帰した際の賃金を出向前と比較して5%以上上昇させた事業主(出向元)に対して当該事業主が負担した出向中の賃金の一部が助成されます。
参考▶︎厚生労働省HP|産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
助成対象となる「出向」
- 労働者のスキルアップを目的として実施すること
- 出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提であること
- 労働者の出向復帰後6か月間の各月の賃金を、出向前賃金と比較していずれも5%以上上昇させること
などの要件があります。
受給額
受給額は下記の通りです。
【出向元事業主】
※企業グループ内出向の場合は支給されません
中小企業 | 中小企業以外 | |
助成率 | 2/3 | 1/2 |
助成額 | 以下のいずれか低い額に助成率をかけた額(最長1年まで)
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上限額 | 8,355円 /1人1日当たり (1事業所1年度あたり1,000万円まで) |
※出向中の労働者に対する賃金は出向前に支払っていた賃金以上の額を支払う必要があります。
受給までの流れ
受給までの流れは下記の通りです。
出向元事業主と出向先事業主との契約
労働組合などとの協定
出向元事業主と出向先事業主との間で下記を取り決めましょう!
- 出向期間
- 出向中の労働者の処遇
- 出向労働者の賃金額
- 出向元・先の賃金などの負担割合
出向計画届(スキルアップ計画を含む)提出・要件の確認
出向元事業主が出向計画届を作成し、出向開始日の前日(可能であれば2週間前)までに都道府県労働局またはハローワークへ提出してください。
出向の実施(1か月間~2年間)
出向先で業務を行います。
出向から復帰(賃金上昇)
労働者の出向復帰後6か月間の各月の賃金を出向前賃金と比較していずれも5%以上上昇させる必要があります。
支給申請・助成金受給(最長1年分)
出向復帰後6か月後の賃金支払日の翌日から起算して2か月以内に出向元事業主が支給申請書を作成し、都道府県労働局またはハローワークへ提出しましょう。
支給申請書に基づき、出向元事業主に助成金が支給されます。
自社の従業員を出向させる
自社の従業員を出向させる場合は、下記のような流れで実施します。
- 出向先の企業と労働条件について話し合う
- 従業員に出向先の労働条件の提示して同意を取る
- 出向契約書を作る
- 助成金の申請
在籍型出向の特徴としまして、出向の命令には従業員は従わなければならないため、社員に対して個別で同意を得なくても出向を命じられ、社員は命令に応じなければいけません。
しかし、助成制度を活用する場合には出向労働者本人が出向することについて同意していることが必要です。
トラブルを防ぐために事前に決めておいた方が良いこと
下記が定めておいた方が良い項目になります。
【トラブルを防ぐために事前に決めておくべき労働条件14項目】
- 労働契約の期間
- 有期契約の場合の更新の基準
- 就業場所、業務内容
- 就業時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間
- 賃金の決定、計算、支払方法、賃金の締め切りと支払時期、昇給
- 退職に関すること(解雇事由を含む)
- 退職手当に関する事項
- 臨時に支払われる賞与などの事項
- 従業員に負担させる食費や作業用品など
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償、業務外の疾病保障
- 表彰、制裁
- 休職に関する事項
1~6の項目は原則として書面の交付で明示する必要があります。(5の昇給に関することを除きます。)
トラブルになりやすい項目である7~14の項目については、双方の理解が大切になります。
書面の交付は義務づけられていませんが、明示する必要があります!
最後に
在籍型出向によって、社員のスキルアップを目指せます!
「雇用の安定を図りたい」
「社員のスキルアップを目指したい」
事業主様はこの機会に助成金の利用を検討してみませんか?
ぜひ参考にしてください!